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 第五章 転換期の福井県
   第三節 変貌する諸産業
    二 戦後の林業
      難問山積の福井県林業界
 拡大造林を達成し用材林産地化の基盤はできた。しかし日本経済は低成長期に入り福井県の林業は多くの難問に直面している。まず福井県産用材の需要は七三年の一一〇万立方メートルをピークに下降線をたどり八六年にはピーク時の五五・三%にまで落ち込んでいる。第一次石油危機後の景気の後退につれて住宅需要は減少し、外材輸入増による木材価格の低迷がこれに拍車をかけている。さらに生産コストの増嵩が林業の採算性を低下させ、林業者は伐採を手控える傾向にあるという。つぎに目標を達成した人工造林そのものにもまだ弱点をかかえている。すなわち雪起し・下刈り・間伐・枝打ちなど保育の必要な若齢樹林が全人工林の約八〇%にあたる約九万二〇〇〇ヘクタールにのぼっている。育樹しなければならない林業者は、木材価格の低迷や労務者の減少と賃金の高騰などから投資意欲が低下し、育樹は十分に行われていないのが現状であると指摘されている。さらに拡大造林が急速に進められたため「適地適木」の原則にかなっていない造林地も見受けられるという。
 このほか森林組合は拡大造林政策に依存して職員や作業班員をふやしてきたが、造林が一段落したため縮小期にむかっている。七〇年の四一組合は八六年には二六組合に減っているが、作業班員の平均年齢は男子五三歳、女子五六歳(八五年現在)と高齢化している。また高齢人口の増加と過疎化が進む山村での林業後継者をいかに確保するかに関係者は腐心しているが、七五年の林業研究グループ八三、二四八八人は八六年には五〇グループ、七四二人に減り、しかもその四八%強が六〇歳以上の高齢者で占められている現状である(『国産材時代に向けての福井の林業』)。
 これまでみてきたように福井県林業界は多くの難問をかかえ、ふたたび転換期にさしかかっている。福井県は森林が有する水源かん養・防災・環境保全のほか国民の保健休養・文化教育の機能に着目し「緑の資源」として総合的に整備していく方向を模索している。最近環境保全の立場から天然広葉樹林の育成が見直されているが、針葉樹の人工造林地を含め造林地の育樹と適期伐採は林業関係者の最低の任務といえるだろう。



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