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 第四章 高度産業社会への胎動
   第二節 地域振興と県民生活
    三 商工振興と工場誘致
      工場誘致
 雇用の促進と地域振興を目的とした工場誘致の促進は、県よりも県内各市で先行した。敦賀市では一九三〇年代に東洋紡、敦賀セメントの誘致を行うなど戦前から工場誘致に積極的であったが、一九五一年(昭和二六)三月、「工場設置奨励条例」を制定した。これは、工場の新増設のさいに、固定資産税相当額の四割から一〇割を奨励金として当該工場に交付するものであり、五〇年代には東洋紡、不二越鉱業、日本PSコンクリートなど約一〇社に適用された(『敦賀市史』下、『福井新聞』59・8・17)。同年には小浜市でも条例が制定され、小浜酒造、芝浦鋳造の増設に適用されている。武生市の工場設置奨励条例制定はもっとも早く五〇年四月であるが、条例適用は五四年の信越化学、倉茂織産が最初であった。五六年に同条例は廃止となったが、その後「中小企業振興条例」により工場誘致がはかられた(『武生市史』)。このほか、福井市、鯖江市でも五六年に条例が制定されるが、これらは比較的繊維関連の工場の新増設が多かった。
 これに対して、県の対応はやや遅れていた。五二年三月の第四〇回定例県議会では、議員が他府県の工場誘致の熱意に対して福井県の予算が一五万円しか計上されていない点を質したのに対して、小幡知事は工場誘致の条件として輸送と電力の整備が先決との答弁を行っている。工場設置奨励に関する条例としては、すでに五一年九月の「福井県県税条例」の一部改正(県条例第四八号)で、投下資金一億円以上または常時使用する労務者三〇〇人以上の事業所の新増設についてとくに必要と認めるものに対して事業税の減免を規定していたが、大和紡績福井工場、東洋紡績敦賀工場で適用されたにすぎなかった。「福井県工場誘致条例」(県条例第四号)の制定は五六年三月で、投下資金五〇〇〇万円以上または常時使用する従業員二〇〇人以上の事業所新設のさいに、前年度事業税額の範囲で補助金を交付し、さらに工場誘致のために基盤整備を行う市町村に対する助成金の交付を定めたものであった(資12下 一八九)。しかし、制定当初は条例適用の審査が進まず、制定後三年間の適用工場は、信越化学、日信化学、北陸コンクリート、福井サイジング、「福井県陶石陶土開発促進条例」(五六年県条例第五号)による福井陶料の五件、補助金交付総額一八九万円にすぎなかった。
 このように、県および各市で工場誘致のための法的措置がとられたが、本格的に県内外の企業が工場の新増設に乗りだすのは、五九年の好況の開始以降であった。この時期になると、道路・港湾といった交通運輸基盤の整備が急速に進むとともに、政府も新規工業地区立地条件調査を武生・鯖江・敦賀・福井市などで開始した。また、町レベルでも、金津・三国・森田町などで工場誘致に関する条例の制定があいつぎ、条例制定自治体数は六〇年に八、六五年には二〇を数えるにいたった(『福井経済』73・8)。



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