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 第三章 占領と戦後改革
   第三節 経済の民主化と産業の再建
     三 繊維産業の再建
      震水災の事後処理
 一九四八年(昭和二三)六、七月の震水災は、県内機業の過半が操業する福井市および吉田・坂井両郡を直撃した。繊維産業に関する被害推定額は七〇億円といわれ、震災直後から県および業界による政府に対する復興資金補助の要請運動が展開された。また七月下旬に開かれた大阪商工局長を長とする繊維工業復興対策委員会では、つぎのような復興の大綱を樹立した。すなわち、九月中に修理可能な織機四〇〇〇台の復旧のために六億二〇〇〇万円の資金を確保し、さらに第一期(四八年中)に三〇〇〇台分一〇億円、第二期(四九年六月まで)三〇〇〇台分八億五〇〇〇万円、第三期(四九年末まで)三八〇〇台分七億四〇〇〇万円、総計約三二億円で復旧させる、染色関係についても三億五〇〇〇万円で同様に四九年三月までに復旧させる、という計画であった(『福井新聞』48・7・24)。
 八月一一日に大蔵省、経済安定本部、商工省、日本銀行、復興金融金庫の各係官が調査団として来県し、応急融資に関する被害査定を行った結果、八月末に表80のように復興金融金庫融資枠が決定された。政府の方針は、輸出向けの技術優秀工場で復興容易なものに重点的に融資を行い、さきの織機復元のさいと同様一工場最低織機二〇台以上に統合することを条件とするものであった。これにしたがい県織工組では融資の有資格者である二〇台以上保有の組合員を集めて説明会を開き、被害状況にもとづき第一次融資対象を二〇台以上工場の四七六八台・二万四〇四八坪と決めた。しかし、震災直後から零細業者を中心として復興資金・資材の機台別公平割当を求める声が強く、こうした政府案およびこれにもとづく県織工組の融資配分案に対する彼らの抵抗は激しかった。この結果、九月末には二〇台以上の完全統合体ではなくても、名目的に二〇台を有する匿名組合として書類が提出されれば融資の対象とみなすことになり、一〇月七日には融資対象台数が五五〇〇台まで拡張され、その分一台あたり融資額の縮小を余儀なくされた(『福井繊維情報』48・9・24、10・2)。

表80 復興金融金庫震災復旧融資決定・実行状況(1949年6月28日)

表80 復興金融金庫震災復旧融資決定・実行状況(1949年6月28日)
 右の復興金融金庫第一次融資は一年据置きで三か年分割償還となっていたが、個々の業者の信用・担保にもとづく貸出であり、返済の詳細は業者により異なっていた。このほかに「清掃金」として四七三工場に対して約六〇〇〇万円が県織工組を通じて転貸され、これは五〇年三月より二年間で八回の分割返済をするという条件であった(『福井繊維情報』48・9・17、49・6・28)。しかしながら実際には返済は進まず、後者は五三年はじめ現在で約三割が未償還で、前者にいたっては五五年六月になっても四億円(元利合計で六億円)が未償還となっており、それぞれ返済完了がある程度進むのは五五年の景気回復以降のことであった。こうした償還の遅れの背景には朝鮮戦争ブーム後の不況が長引いたこともあるが、のちに「借りた連中は天変地異の大災害を蒙つたのだから政府から見舞金でも貰つたつもりでいた。また当時の組合指導者達ちもその含みを暗に強調しておつた。また当時はアメリカの占領下にあつたので国交回復し占領が解かれればこの借金も棒引きになると考へ込んでいた連中も相当にあつた」と回顧されるように、政治的な含みが優先された貸出であったことも否めない(『福井繊維情報』55・6・22)。
 実際、業界では二次、三次の融資への期待が大きかったし、また日銀の融資審査の厳格さに対し、審査基準を寛大にして融資決定を促進することを求める声もあがっていた(『福井繊維情報』48・10・2)。これに対する復金の融資審査を行う日銀金沢支店の見方を三点だけ摘記しておこう(資12下 二四七)。(1)復旧対策委員会の大量観察による実査主義に対し、地元では実査困難を理由に一律主義を主張したため、割当方針の確立が遅れた。(2)業界、地方庁、出先機関では当初より被害の過大視と復金借入への便乗ないし補助金的考え方が強く、これが事ごとに意見対立を招き融資実行を遅らせる結果となった。(3)対策が場当り式で視察者の無責任な個人的意見が罹災業者に甘い考え方を植えつけた。「応急」という言葉を用いて以後の対策への期待をもたせたことも問題であった。
 復興金融金庫融資は一二月末の経済安定九原則の実施にともない打切りとなり、融資枠に対する実行額はほぼ半分にとどまった(表80)。しかしながら震災からの回復は順調で、一年後の復旧率は業者数九五%、設備台数九〇・六%、建坪数五四・四%であった(『福井繊維情報』49・6・8)。



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